多摩川の江戸前天然鮎遡上。今年はついに1千万尾の大台か
いつもなら、5月の中旬にはピークを迎えるはずの多摩川の鮎の遡上。
今年は少し遅れて、5月の下旬になってから日野あたりを大量に通過したようです。
思い起こせば昨年の秋、落ち鮎のころ。
丁度、台風が重なって通り過ぎ、多摩川の上流部に大雨をもたらし、そのせいで、いつまで経っても本流の濁りが消えないでいました。
日野で合流している浅川は比べてすぐに清流に戻っていたため、濁りを嫌った鮎が大量に入り込み、このことを「鮎がさす」というのですが、そのさしこみのおかげで、時ならぬ鮎フィバーが起きました。
橋から下を覗くとキラキラと鮎が群れをなし、耳早い太公望が押し寄せ、普段は何の興味も持たずに川を渡っている人たちも、熱心に流れを覗き込む人に「何かあったんですか?」と問いかけ、「いやね、鮎がたくさんいるんですよ」、「こんな所にいるんですか?そんなに水きれいじゃないんでしょ」、といっときの環境談議も提供してくれていました。
東京都島しょ農林水産総合センターでは昭和58年から多摩川への江戸前天然鮎の遡上調査をしています。
その結果から見ると、コンスタントの100万尾以上が記録されるようになったのはここ数年のことです。
流域下水道が整備され、鮎、もちろん他の生き物たちへの住み良い環境が戻ってきた証でしょう。
その遡上数が推計で昨年は780万尾へと一気に増加。
昨年秋の鮎フィバーは天気のせいばかりでは無かったのです。
そしてどうやら今年はそれを軽く越えて、一千万尾になるのではと予想されています。
鮎の稚魚たちはお台場あたりの浅瀬で冬を過ごし、3月下旬から川を上り始めます。
水中を泳ぐ鮎、しかも大きいものでも12㎝ほどで、ほとんどは10㎝に満たない大きさ。
普通に川を眺めても実感するものではありません。
日野あたりで河口から45kmほど。
日野のまちを流れ続けている日野用水の取り入れ口である平堰では遡上する鮎の姿を見ることができます。
平堰は数百mに渡って多摩川を横断して堰止めています。
ここには2つ魚道があるものの、高さ1mほどの堰を緩やかに流れ落ちる水に挑む鮎たちを見る事ができるのです。
鮎がいれば、ご相伴にあずかりに来る鳥たちが目印です。
鳥たちにとっては、なにしろここは獲り易い。
おなじみ白サギや青サギはいつもの習性でじっと、足下によって来る鮎をパクリ。
面白いのはカラス。
やって来ているのは田舎を住まいにしているハシボソガラスです。
何年か前までは、流れに足を入れるのがいやだったのか堰の端のところで、じっと鮎が近くに来るのを待っていたのに、今年見かけたカラスは学習を積んだ強者たち。
鮎がたくさん固まってジャンプしている所へ近寄ると、足下ではなく堰をじっと見つめます。
流れに逆らって一生懸命堰を上ろうしている鮎は、一瞬相対的に止まります。
それを、はい、ごちそうさま、です。
この堰を越えた鮎たちの大部分は、東京都の水道水を取水している青梅の小作堰で行く手を遮られてしまうのだといいます。
秋川に入った鮎は五日市駅そばの秋川橋よりも上流へ上っていくそうです。
日野用水に迷い込んだ鮎は街の楽しみになります。
「今年も鮎が来た」、から、秋にさよならするまで、姿を見守られて育ちます。