夏至のころに

前回お伝えした向島用水の水車。
水車を回した水は今だ「現役」として下流の田んぼを潤しています。

夏至のころに
われわれはなんてったってこどもである

コットン、コットン、水車が回る
田植えは午前中、でも、夕方まで田んぼにいます
夏至のころに
お昼ご飯はおにぎりだい
夏至のころに
キャベツ、いただきます、青虫です
夏至のころに
ここから上流が浅川です
夏至のころに
母は強し
夏至のころに
アオダイショウであります
夏至のころに
母は優し
夏至のころに
夏至のころに

21日に夏至を迎える今週。
その前には、春から準備が始っていた田んぼではすっかり田植えが終わり、かわいらしい苗が並ぶようになります。
農家といっても、ほとんどが兼業農家。
田植えは土、日曜日が中心で、6月に入ると田植機によって、あっという間に整然と苗が植えられます。
その中に「ここはまだなんだ」と、残されている小さめの田んぼは、小学校の稲作体験の田んぼか、農家が知り合いの方に「米作り体験」のため貸している、そんな田んぼです。
17日の日曜日には、野外保育「まめのまめ」活動に参加しているお父さんやお母さんが借りている田んぼで田植えがありました。
指導役はこの田んぼの持ち主の農家の方。
もちろん、子どもたちも、歩き始めた赤ちゃんから、とっくに保育を卒業した小学生も混じっての田植えです。
とは言っても、子どもたちのお目当ては、水遊び+泥遊び。
ちょっとは、田植えを手伝ってみても、きらきら流れる魅力には勝てません。
大人たちがニコニコしながら、秋の収穫を思い浮かべて、腰をとんとんしながら苗を植えている周りを子どもたちの歓声が響き渡っていました。
賑やかな田んぼの声に送られながら、さらに向島用水下流に下ると、畑や水辺には発見がたくさんです。
無農薬の畑に植えられているキャベツは、決して、お店では見かける事ができないほど、穴だらけ、虫食い状態。
そっと、穴の葉っぱを裏返してみると、青虫が食事中。
用水が水を取り入れている浅川に出てみれば、遊歩道からは広々とした空。
もうすぐすると、うだるような暑さになって、日中はほとんど人影が減るここも、今くらいまでは気持ちよく過ごせます。
向島用水が流れ込んでいる程久保川沿いの遊歩道までたどり着くと、こんどは静かにじっと覗き込む人たちの姿。
その視線の先をたどると、8羽の子供にえさ取りの訓練をさせているカルガモ一家。
子供たちを油断すると、足下をすくわれそうな微妙な流れに立たせ、えさを食べさせているお母さんは、一羽一羽に眼を配り、さらに空と川面にも神経を行き届かさせている様子です。
人より高い位置では、カラスがなんとなく見ているし、ほんの10mくらい離れたところには、実際1.5mほどのアオダイショウが少し泳いでは岸に隠れ、また、泳ぎしているのですから。
5時を過ぎてもまだまだ日は高く、ゆっくりと、流れを戻ってみても、夕暮れまで時間を余らせます。
用水路は男の子たちにとっては「修行の場」でもあります。
幼稚園くらいになると、自分の兄弟や、そうでなくてもお友達のお兄さんに自慢気に見せ付けられる、ザリガニやカエルは、羨望の的。
お兄さんたちの「狩り」に便乗して、ちゃっかり、「ちょうだい」できる子もいます。
何としても自分だけでとチャレンジする子も。
「何でザリガニとかカエル、男の子って好きなんですか。わからないわ」、というお母さんに半分は「手伝ってもらって」、密かに練習を重ねることもあります。
昔、男の子だったお父さんにすっかり熱を入れさせて、子供への指導もそこそこに、夢中にならせてしまうのも用水路です。
一日の終わりが近付き、日がいよいよ傾き、水平に差し込むようになる光になると、田植えが終わったばかりの田んぼは一瞬、それまでとは違った景色を写し出してくれます。
それは、後2週間も経つと順調に育つ稲に隠されてしまう、この時だけのものです。
田んぼを囲むように増え続けている瀟酒な住宅は、真新しい壁を照らされて苗の中に浮かびあがります。
家路を急ぐ影を乗せたモノレールが水面を走って行きます。
気にも留めることもない、夏至のころの一日のお話でした。