春は静かに
遅れた桜もあっという間、一週間ほどで見ごろを終え、「花の命は短い」の言葉通り、人の関心が薄れるのを見計らうように、若葉へと変わっていきます。
あれほど先月まで賑わっていた、京王百草園は桜のころになると、人影もまばら。
さらに、それも過ぎると、ウグイスの声が響くばかりです。
でも、この時期には他の季節にはない味わいがあります。
まずは、樹齢200年のものもあるミツバツツジ。
濃さを極めた紫が背丈も越す程に重なり、常緑樹の緑の葉と新緑の若葉、そして薄い桜色を従えて空の青に揺れる様。
聞こえるのは、風の音と遠くの電車。
その音もかき消す小鳥のさえずり。
遠くを見れば、林の芽生えに幾色もが混じる丘。
今年は恒例、「新緑まつり」が開催されなかったこともあり、なおさら趣きある日本庭園でした。
同じ丘陵を縫う散策路も、忘れるのが惜しいほどの色合いの時です。
背の高い山桜は、近くから見上げるよりは、遠目から他の若葉と揺れる様が一番。
ついこの間まで、枯れ枝の梢に透けて沈んでいた夕陽は、若色の葉と朱を複雑に混ぜ合います。
曇りの日には、白く銀にも見える丘は空と解け合い、その中にほのかに紅や黄が薄く透けて見えています。
桜、その艶やかさが引いた春の幕間。
その緞帳は静かに、次章への幕上げの準備をしています。